2点そろった時代の記録
2012.10.03
現在、当館で開催中の「文明を辿る旅」展では現代日本画の巨匠たちによるさまざまな民族や地域を描いた作品を展示しています。中でも平山郁夫による二つのバーミアンの大石仏像は今展のハイライトのひとつで、二つ並んで見ることが出来る大変貴重な機会です。
バーミアンは、アフガニスタンの首都・カブールの西方約240キロ、ヒンズークシ山脈中の渓谷に位置する小さな村で、かつては中央アジアとインド、ペルシャを結ぶ幹線路が交差する、シルクロードの重要な拠点でした。こうした歴史的、地理的条件を背景に、この地には古くから仏教が栄えました。7世紀、教典を求めてインドへ向かう旅の途中の玄奘三蔵がここを訪れたとき、僧徒は数千人を数え、石仏は金色燦然と輝いていたといわれています。しかし、バーミアン王国は1212年にジンギスカンにより滅ぼされます。そして、ジンギスカンは、攻略の際に寵臣であった若い指揮官が戦死した事を受け、報復として、あらゆる宮殿、僧院、石仏を破壊し尽したのです。
平山郁夫は1968年にこの地を訪れ、破壊の痕跡が残る石仏の姿に強い衝撃を受けて「バーミアンの大石仏」(成川美術館蔵)を描きました。それから34年後の2002年、かつて三蔵法師も拝顔したこの尊像は、タリバン政権下にこっぱみじんに跡形もなく爆破されてしまいました。このとき平山が抗議のために描いたのが「破壊されたバーミアン大石仏」(平山郁夫美術館蔵)です。画家はカブールで開かれたユネスコ主催の国際会議で、人々が二度と同じ過ちを繰り返さないよう、これを人類の「負の世界遺産」としてそのまま後世に残すよう、その復元に強く反対しました。
この2つのバーミアンの大石仏像は、2点揃った時代の記録によって、遥かなる平和への切実さを語りかけています。そしていまもなお戦乱がつづく中東紛争地を静かに告発しているのです。(写真右が「バーミアンの大石仏」、左が「破壊されたバーミアン大石仏」)