【今週の1点】吉村誠司「トルファンの朝」
2013.03.15
「中国西域を取材旅行した折、トルファンを出発する日の朝に取材したものです。ロバの耳の形がおもしろいと思い、差し込む日差しによって強調しようと描きました。」(文・吉村誠司)
中国の天山山脈を望む盆地トルファンで見た実景から、ロバの耳を強調したフォルムを抽出して焦点を当てています。またこの作品の大きな特徴として、縦長の構図と、家畜の檻らしくない鳥籠のように華奢で細い柵が挙げられるでしょう。
院展で活躍し東京芸術大学で教鞭を取り、芸大の日本画の正調アカデミズムを次世代につなげる存在である吉村誠司は、同時代感情と鋭敏なモダニズムを基調としたしなやかで抒情的な作調と、新しさの中に幽遠さを感じさせる表現が特徴です。
本作品でも、幻想性と映像美、色彩の発色と幽玄性、造形と没骨、朦朧表現と晴朗性などがほどよく絡み、柔らかで洗練された日本画ならではの上品な味わいがあります。1993年第48回春の院展奨励賞受賞作です。
*是非実物を見に美術館へいらしてください。