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【今週の1点】平松礼二「路-小菊雨晴」
2013.04.05
「江戸時代に生みだされた意匠は世界に冠たるものだったことは歴史が証明している。建築、家具、調度、用具、絵画、装飾品等は現在外国から最も熱い視線が注がれている。
江戸の鎖国は日本人の豊かな創造性を純に開花させた。私はそれらの中でも特に絵師たちによって創りだされた山川草木、花鳥風月の図案類や絵画に特別の関心をいだいている。
かねてから江戸意匠のエッセンスを現代絵画にとり入れられないかと考えていた。日本人が伝統として受けついでいる装飾性と現代のクールなリアリティを結合させたらどのような絵画が生まれるのか、私はこの作品で実験制作をしてみた。」(文・平松礼二)
【今週の1点】吉岡堅二「黒鳥屏風」
2013.03.29
「僕の絵は、まず画面に対角線をひいて中心に何かを置くことから始まるんです。この場合は赤いくちばしだな。そして四曲それぞれの面を対角線構図で構成しながら、全体の動きを決めていく。ただ情趣だけの絵は、一皮むけば何も残りませんからね。」(文・吉岡堅二)
現在開催中の「成川美術館の至宝 第1回創画会の作家を中心に」では、山本丘人とともに創造美術(現在の創画会)の主力創立会員となった吉岡堅二の代表作である本作を展示しています。
周到な造形的計算の他に、さまざまな箔を使い分けるなど日本画の高度な技術が見受けられる本作には、戦前からの前衛日本画として真っ向から勝負を続けてきたこの作家に、東洋画の正統を外さないという誇りや信念もうかがえます。それは京都生まれの日本画家を父にもち、15歳で入門した野田九浦に技法的なことを徹底的に教え込まれた吉岡にとってはごく自然なことだったのかもしれません。
*是非実物を見に美術館へいらしてください。
【今週の1点】山本丘人「残春」
2013.03.22
「庭内の八重桜は桜花を誇る。去り往く春の名残り。」(文・山本丘人)
本作は、奥村土牛、中川一政、岡鹿之助、山本丘人の4人のグループ展「雨晴会」の第16回展に発表されました。
横長の画面いっぱいに張り出した枝先には、ぼんぼりのようにぽってりとした八重桜が満開に咲いており、一部はらはらと花びらが舞い散り始めた様子が描かれています。樹の幹が何本か途中ですぱっと伐られていますが、樹幹の意外な切断と歪曲とが、活気のある今日の美へと転化しており、この作家ならではの現代性がさりげなくしめされています。そして、背後の楓のような緑の灌木と、瀟洒な薄暗い虚空間が潔く怪しいまでの桜の幽玄美を醸し出しています。とても深い味わいのある幻想的な桜の絶品と言える作品でしょう。
是非実物を見に美術館へいらしてください。
【今週の1点】吉村誠司「トルファンの朝」
2013.03.15
「中国西域を取材旅行した折、トルファンを出発する日の朝に取材したものです。ロバの耳の形がおもしろいと思い、差し込む日差しによって強調しようと描きました。」(文・吉村誠司)
中国の天山山脈を望む盆地トルファンで見た実景から、ロバの耳を強調したフォルムを抽出して焦点を当てています。またこの作品の大きな特徴として、縦長の構図と、家畜の檻らしくない鳥籠のように華奢で細い柵が挙げられるでしょう。
院展で活躍し東京芸術大学で教鞭を取り、芸大の日本画の正調アカデミズムを次世代につなげる存在である吉村誠司は、同時代感情と鋭敏なモダニズムを基調としたしなやかで抒情的な作調と、新しさの中に幽遠さを感じさせる表現が特徴です。
本作品でも、幻想性と映像美、色彩の発色と幽玄性、造形と没骨、朦朧表現と晴朗性などがほどよく絡み、柔らかで洗練された日本画ならではの上品な味わいがあります。1993年第48回春の院展奨励賞受賞作です。
*是非実物を見に美術館へいらしてください。
【今週の1点】黒光茂明「土に咲く」
2013.03.07
今回紹介する作家・黒光茂明は、日本画家・黒光茂樹の次男として京都で生まれ育ちました。
父親の茂樹は16歳の時に故郷の愛媛を出て単身京都に向かい、金島桂華、福田平八郎の両氏に師事し、戦前から一貫して帝展、日展を舞台に活躍して、その審査員を務める傍ら、花鳥や大地に向き合って自然界の命を表現し続けました。
そんな父親の背中を見て育った黒光茂明は京都市立芸術大学日本画科を卒業後、京都画壇の正統派として活躍し、今日の京都日本画壇のリーダーとしての役目を果たしながら活動を続けています。今年、父親の茂樹氏と同じく京都府文化賞功労賞を受賞しました。
本作では落花した椿が、あたかも地面の上で野の花のように咲いています。純白の花弁はいまだ黄色の花芯が鮮やかです。多数の花びらが土に還っていく季節の変わり目にあって、最期の花の輝きを発見したような新しい花鳥画の捉え方といえます。足下を見つめた風景画は、花たちの浄土でしょうか。
*是非実物を見に会場へいらしてください。